二萬打SS

□Eve 2
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どれくらいの時間が経ったんだろ。


漸く収まってきた涙を拭って、電子掲示板を見上げたら真っ黒だった画面が動いていた。



一番先に目に着いたのは帰りの方向の電車。


おれはゆっくりと足を踏み出して、反対側のホームへと向かった。




Eve 2








もうこれでいいんだ。


ヴォルフラムはおれじゃないやつとこれからを過ごしていくだろう。



おれは…今までの曖昧さは全部消し去って、明日からどうするか、を考えればいい。


『ご乗車のお客様が乗られましたらすぐの発車となります…』



駅員のアナウンスがホーム中に響いてる。
混雑したドア付近で乗っていた人々が降りてきて、狭い空間で何度も肩がぶつかった。



「乗らな、きゃ…」



前に並んでいた人からどんどん吸い込まれるように中へ進んでいく。



「さぁ、帰ろう…おれ」

周りの騒音によって掻き消されるおれの弱い声。




情けない男の声。




おれも、電車の中に足を掛けて……―








『ユーリ、大切な話がある』




「っ……」



脳裏をよぎったのはあの時の優しい声だった。



やめてくれ。もういいんだ…






『ユーリが来てくれるかどうか、問いはしない。』




あれはもう過去の話だ。
だから、


「消えろ…」




あの日の寂しそうな笑い方が今でも目に焼き付いて…



『お前と初めて出会ったこの場所で、待っているから…―』




離れない…




「消えろって……!!」



おれは思い切り足を踏み出して満員の電車の中に身を隠した…










『大変長らくお待たせ致しました。本日は人身事故により電車の発車が遅れましたこと大変お詫び申し上げます…』


ぎゅうぎゅう詰めの電車の中。
駅に着く度に押し合いへし合いを繰り返して電車は進んでいく。



『次は―…駅です』



目的地へとただひたすらに走っていく。
やっと着いた駅の、そのずっと遠くに鮮やかなイルミネーションが覗いていた。







ッハ…ハッ……ハァ…



「すみません。ッ通して下さい…すみません!」


おれは、人で溢れた道を駅からずっと我武捨等に走っていた。
隣を見たら道路は渋滞してて、歩道も人でいっぱいで。
目指す場所までは果てしない道のりに感じた。




そうだ。
おれは諦めが悪いから、どうしても大人しく帰る事が出来なくてドアが閉まる直前に抜け出した。




待っている、と言われたあの時の言葉がどうしても引っかかって…

今から思えば単に彼女紹介だとか、とにかくおれ達の微妙な関係に終止符を打つ様な…
そんな話をしようとしていたのかもしれない。


でも約束をした今日だけは、アイツとおれがちゃんと会える、
最後のチャンスだと思ったから…―



今行かなきゃ、ずっと…ずっと後悔すると思うんだ。





はぁ、はぁ……




約束の時間からもう三時間はとっくに超えていた。

呼吸するのが本当に厳しくなってきた頃に、漸く見えたのは駅から覗いていたのよりずっと大きなクリスマスツリー。
そのイルミネーションがツリーを中心にして周りが鮮やかに輝いていた。
上を見上げるとあんなに明るいのに、不思議な事に下はあまりよく見えない。
ツリーの正面に着いたおれは直ぐに周りを見回した。




居ない。




「ッ…はぁ、っまだ…」




大きなツリーの周りには沢山の装飾の置物もあって、だから一周するのにも距離がある。


もしかしたら反対側?

おれの死角にいるとか?


生唾を飲み込んで中腰になりかけた体を起こしておれはもう一度、走った。





頭の片隅で本当は理解してる。

あんな電話を受けて、こんなに時間が経って…


アイツは、きっともう待ってはいない。




それでも止まらない自分の感情かそれとも願望かが、どうしても願ってしまうんだ。



会いたいって…







進む程に落ちてきたスピードはツリーを一周して少し過ぎた所で、止まった。



「…ッ…はは」


耐えられずに隠した口元から漏れたのは自嘲。
情けなさすぎて笑うしかなかった。


遅かった。
いや、それ以前におれすら待ってなかったかもしれない…


「…おれ、本っ当バカだよ」


直しようがない。
誰かに貶されてもきっと否定出来ない。


だってこんなに現実を目の当たりにしてまで、まだ何かを期待してる自分がいる。
もしかしたら見えにくくなった陰からひょっこり現れるんじゃないかって…

でも見つめる先には欲しいものは何もない。



「今になってやっと気付いたのかよ、おれは…」



遅すぎだ…

遅すぎたんだ。




「こんなに…好きだったなんて………」







どうして、今まで気付かなかったんだ…―

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